修正、修正。

 春と空の両親は既にこの世に居なかった。二人が五歳の時、両親を乗せた飛行機のエンジンが暴走し、そのまま爆発したのだ。両親の遺体こそ発見されなかったが、爆発したのは超上空。漫画やアニメに登場する伝説のアイテムを使うでもしない限り生存はありえないということは、当時の春達ですら容易に理解出来た。
「あ…ご、ごめん」
「別に良いって。お前だって、まあ、無関係じゃないんだからさ……」
 あの飛行機事故に巻き込まれたのは春の両親だけではない。あの飛行機には優香の両親も乗っていたのだ。そして、優香の両親の遺体もまた発見されなかった。何故なら……
「私は良いのよ。お母さんもお父さんも今ではピンピンしてるから」
 何故なら、そう。優香の両親はあの飛行機事故から生き延びていたのだ。当時は全身の骨がボロボロに砕けていたりと直視出来ないほど酷い状態だったらしく、その場にいた救急隊員達の適切な応急処置がなかったら今頃優香も春と空と同じ境遇だっただろう。だが、優香の両親は生きていた。それは今こそ引退はしたものの、かつては『虹色の魔女』と全大陸に名を轟かせていた歴代最強の魔法使い姫野舞(ひめのまい)…優香の母親の力があったからである。舞の話では、事故に遭ったあの時、突然機内に尋常な量のマナが溢れ、それを持てる力全てを使って防御魔法に回したから助かったとのことで、事実飛行機の墜落現場には通常ではありえない程のマナが漂っていたという。とにかくその事もあり優香の両親は助かり、舞は舞で一時は飛行機事故の生還者としてマスコミに持ち上げられ、今でも彼女を尊敬する者は少なくないという。
「でも、優香ちゃんのお母さんって本当に凄いよね。わたしも憧れるな〜」
 このように。
「そう? うちのお母さん、確かに魔法使いとしての腕は超一流かもしれないけど、家事は全然駄目。しかも金使いがあらくて酒乱、いっつもお父さんに迷惑かけてるのよ?
 まあ、春が毎日帰りに寄って来て夕ご飯を作ってくれるから、助かってるけど……。あーあ。あんな大人にはなりたくないな」
 とは言うものの、血は抗えないと誰かが言った通り、優香の料理の腕は舞に同じくかなり壊滅的である。その味は、口では表せない表わしたくないと、優香と舞の料理を食べた人間全てが口を揃えて言う程だ。本人達は全く自覚していないが。
「あーそれは同感。俺もあんな女性とは結婚したくないな」
 自分の理想の女性は、炊事洗濯を完璧にこなせて、それでいてお淑やかな女性なのだ。