孤児院の設定をババンと除去。良いのかなー?

 トン、トン、トン。
 すっかり片付いた部屋に、春がリズム良く包丁を扱う音が響いていた。
 春と空を引き取ってくれた皐月時雨の妻、霞(かすみ)はボランティアをしており、ちょくちょく家を空けることがあり、その度に春と鈴が家族の食事を作っていたので、こと料理に関してはかなりの自信があった。
「ねぇ、春。昼ご飯まだ出来ないのー?」
 待ちくたびれたのか、つい二十分前に酒瓶からソファーの所有権を奪い返し、勝利の証を満喫するかのように寝転がっていた優香が、うーうー言いながら訪ねてきた。
「まだだよ。ていうか、そこまで言うなら手伝―――」
手伝えよ。と言いかけて辞めた。優香に料理を作らせるのは赤ちゃんに飛行機の操縦桿を任せるのと同意義だ。ふぅ、と春は冷や汗を拭いながら自分の迂闊さに後悔しながら、先程の言葉をかき消すように、まな板を叩く音を強くした。ちなみに、舞はというと……酒で酔いつぶれて、今は豪快ないびきを掻いて寝ていた。
「ねー、まだー?」
「まだ」
「まだー?」
「まだ」
「まーだー?」
「…ハァ。出来たよ、出来た」
「待ってました! じゃあ、私運ぶね!」
 本当はもう少し煮詰めたかったのだが、優香があまりに五月蝿いので仕方なく、本当に仕方なく、最低限食べれるだけの味付けを済ませた料理を優香に手渡した。
「うわー! おいしそー!」
 そう喝采の言葉をあげたのは、いつの間に起きたのか舞であった。
「うーん。やっぱり料理が出来る男の子って素敵よねー! 何せ、料理を作らなくても良いから!」
「それ、駄目人間の台詞ですよ」
 そんな舞を見て、春はこんな大人には絶対になりたくないと思った。