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【隣は魔法使いさん家SS】
俺と小夏とマリアージュ
「わぁー! ここが向日葵さんの言ってた、お花畑かー! 凄いね、太陽!」
「だな。けど、向日葵さんも無茶なこと頼んでくるよなー」
俺と小夏は、近所で花屋を営んでる向日葵さんの頼みで、見知らぬ土地の花畑に来ていた。なんでも万能薬を作るためにはどうしても『キュアオール』という猛毒草が必要らしく、そこを丁度通りかかった俺と小夏に頼んだというわけだ。
「聞いたこともない場所にある花畑だもんね。七海ちゃんがいてくれて本当に助かっちゃった」
そう、俺たちは普通なら数ヵ月はかかるだろう距離を、七海の『自分召喚』という、まあ、一種のワープ魔法のお陰で、一瞬で移動したんだ。…けどさ―――
「それなら、七海にキュアオールを召喚してもらった方が早くないか?」
そうすれば、俺も小夏も苦労しなくて済むのに。
「これ以上楽を考えちゃダメだよ、太陽。それに、もしかしたらキュアオールを守る番人とも戦えるかも! あーそう考えるとワクワクしちゃう!」
「そんな番人がいてたまるか」
自分に言い聞かせるよう一語一句ハッキリと言いながら、ペラペラとめくっていた向日葵さんから預かった植物図鑑を閉じた。
「よっしゃ。それじゃ、さっさとキュアオールを見つけて帰るか」
「うん! 戦闘準備も怠らないようにね!」
俺は耳をふさいだ。
※
宝の番人との激熱バトルを期待していた小夏の想いと裏腹に、キュアオールはすんなりと見つかった。良かった、本当に良かった……!!
「なーんだ。これがキュアオールかぁ」
本気で残念そうな顔をする小夏には悪いが、俺は今心から安心していた。やっぱりさ、なんでもかんでもバトルに行くワケがないんだよ。
「キュアオール、ゲットだぜ! っと。よっしゃ、それじゃ帰ろうぜ」
「うん……」
(うわー、本気で落ち込んでるな、こりゃ。このまま放っておくワケにもいかないしどうしたもんかな……ん?)
泳いでいた俺の目に入ったのは、二本の花だった。
一本は薔薇のように紅く染まった、なんとなく情熱をイメージさせる花。
もう一本は、夏の雲のように白い、なんとなく純潔をイメージさせる花。
二本とも俺がこれまで見たどの花よりも綺麗だった。花にあまり興味のない俺でもこう思うんだ。きっと本職の人―例えば向日葵さん―が見たら、もっと気の利いた美辞麗句を並べるに違いない。それくらい綺麗な花だった。
(! そうだ、向日葵さんから借りた植物図鑑!)
二本の花の魅力の所為か、俺は息をするのも忘れていたらしい。
正気に戻った俺は、向日葵さんから借りた植物図鑑をめくり―小夏曰く、速読らしい―その二本の花のことを調べ始めた。
「あった、これか……」
そこには、俺の目の前にある二本の花の写真が載っていた。俺はこれまた花の魅力の所為か、小夏の存在を忘れて、図鑑に書かれている説明文を朗読した。
(『マリアージュ:紅と白の二色の花が隣り合わせで同時に咲くことから、友情・絆の象徴とされている』……マリアージュ、友情と絆の象徴ねぇ……そうだ!)
「…………………………」
「小夏」
「なに――――わっ!?」
振り向く小夏の頭に、俺はマリアージュで作った花冠を乗せてやった。…だ、大地―俺の親友―の真似をしてみたけど、これは恥ずかしすぎるッ!!
ポカーンとした表情で俺を見つめる小夏。ええい、こうなったら自棄だ!!
「そ、それさ、マリアージュっていう花で作ったんだけどさ、このマリアージュはなんでも友情・絆の象徴らしいんだ。ほら、俺の腕にもマリアージュで作ったブレスレットがあるんだ。これで昔は二人の友情を誓いあったらしいんだよ。バトルが出来なかったのは残念だと思うけど、まあ、ここは俺たちの仲と、そのマリアージュの花冠に免じて機嫌を直せよな」
何を言ってるか自分でも分からないけど、小夏のノリで言うなら、俺のハートは伝えられた……と信じたい。ていうか、これで伝わらなかったら、「振りむき際に花冠を頭に乗せる」なんていう、俺には到底似合わない恥ずかしいことをした意味がなくなる。
「これ、太陽が作ったの?」
「あ、ああ。ほら、俺って自分でも言うのもなんだけど、手先が器用だろ? だから、簡単な花冠ならすぐに作れるんだ。あ、このブレスレットもさ」
「…うん! ありがとう、太陽!」
小夏に笑顔が戻った。そうそう、やっぱり小夏は笑ってなきゃ小夏じゃないよな。本人の前じゃとてもじゃないが言えないけど。
「えへへ、太陽とお揃いかー。嬉しいな」
少し考えて。
「俺に惚れると火傷するぜ?」
「イヤん♪」
こうして、俺と小夏のキュアオール探しは、なんとか笑顔で終わることができた。
※
―――次の日。
「向日葵さん! 頼まれていた、キュアオールです!」
「ありがとう、助かったわ。それにしても可愛い花冠をしてるわね。どうしたの、それ?」
「えへへ、実は昨日太陽に作ってもらったんです!」
「…あの子に? それ、マリアージュよね?」
「はい、そうですけど?」
「もしかして、あの子もマリアージュの花冠を持ってるの?」
「いえ、太陽はブレスレットにしたって言ってました。今日はもう付けてませんでしたけど……それがどうしたんですか?」
(マリアージュ。紅と白の二色の花が隣り合わせで同時に咲くことから、友情・絆の象徴といわれている。…『またその性質上、結婚指輪にも好んで使われ、紅い方には“私だけを見ていて”白い方には“私以外を愛さないで”という意味が込められている』)
(…ふぅ。私が貸した植物図鑑には、友情と絆の部分しか書いてなかったからだろうけど……偶然とはいえ、これはまた面白いことをしたわね)
「? 向日葵さん?」
「なんでもないわ、気にしないで」
(…ま、知って後悔するのはあの子だし、精々それを見て楽しむとしましょうか)