まあ、また転載です。微妙に加筆修正してますが。

 入学式も無事に終わり、生徒達が自分達に割り当てられた教室に帰る途中、春は今日の主役だった新入生男子に呼び止められ、そのまま先程まで入学式の会場であった体育館の裏側まで連れて行かれていた。
 そこは体育館裏だというのに、位置や時間の関係上、何も障害物のない校庭と殆ど同じ明るさを誇っていた。少し目線を上にあげれば、綺麗な桜が視線に飛び込み、そよ風に靡(なび)かれながら、愉快にダンスをしていた。
 ゴウッ。
 突然の強風にリズムを狂わせたダンサー達は、ダンス会場を木から空に移し、自分達はどこでも踊れるのだと、美しく優雅に舞い、そのまま大地に足を付けた。もしも、点数を付けるなら文句なしの五〇点満点だと春は思った。
「えーと、それで何の用?」
 桜達のダンスを満喫した春は、ようやく自分が呼び出された身だということを思い出し、困ったように頭を掻きながら、目の前に居る自分を呼びだした理由をその男子生徒に尋ねた。
「え、いや、その……」
 何故だか良く分からないが、ウジウジと顔を赤らめながら、まるで先程の春の寝言と同じようにもごもごと小さく唸っていた。
「あのさ、こっちとしてもそろそろ行かなきゃ、授業が始まっちゃうんだけど」
 授業と言っても、別に教科書や参考書を使った普通の授業ではなく、今学期の目標や春休みに出た課題の提出、春休み中に規則を破り私利私欲で『魔法』を使った生徒への処罰などと言った、いわゆる大型版ホームルームみたいなものなのだが、それでも遅刻するわけにはいかなかい。何故なら、春達のクラスの担任が元レディースヘッドで、かつて一人で暴走族団を壊滅させた、月の輪熊を素手で秒殺したなどと数々の伝説を残し、生徒達の間では『ヤンキー』という名で恐れられる鬼教師、内海麗奈(うつみれな)だという噂を耳にしたからである。もしもその噂が本当なら、初っ端から遅刻したらどんな目に合うか分かったものではない。なので春としては何の用かは知らないが、さっさとして欲しいと言うのが本音だった。
(ていうか、もし本当にヤンキーが担任だったらどうするんだよ…! うわー、ヤバイって。何でも良いから早く言ってくれー!)
 そんな春の祈りが通じたのか、はたまた先程の春の言葉が効いたのか、男子生徒は決意を固め、春の顔を真剣に見つめてきた。
「あ、あの、青崎春先輩、ですよね?」
「うん」
 何を今更。というより、もしやこの男子生徒は自分の名前もろくに知らないまま、こんな場所に呼び出したのか。
 ゴウッ。
 そんな春の疑問を吹き飛ばすように、再び強風が吹き荒れ、ピンク色に染まった世界の中で春の美しい髪が風に乗る。そして―――
「その、一目見た時から、貴女が好き、でした。…僕と付き合ってください!!」
 季節は四月。春は見知らぬ男子生徒に告白された―――
「…俺は、男だぁあああ!!」
 告白され……その男子生徒を持てる全ての力を振り絞って、蹴り飛ばした。
 そう、この誰もが認める黒髪の美少女は、歴とした『男』だった……。