【隣は魔法使いさん家SS】


俺と姉貴とファッション雑誌


「ねえ、太陽。アンタ、偶には七海ちゃんにプレゼントでもしてあげたら?」


「は?」


いつもの休日、俺が平和と平穏を満喫していると、突然姉貴がそんなことを言ってきた。


「なんで俺がアイツにプレゼントあげなきゃいけないんだよ?」


そりゃ確かに俺と七海はお隣さん同士ということもあって、最も長い付き合いで、「七海の欲しいものはなにか」と聞かれたら即答できるが、だからといってアイツにプレゼントをやる義理はこれっぽちもない。むしろ、普段からアイツの起こす天災に巻き込まれている俺がプレゼントを貰うべきなんじゃないか? いや、そんなこと口には出さないけどさ。


「むしろ、俺が欲しいよ」


あ、出しちゃった。きっと疲れてるんだな、俺。昨日も昨日で七海が異世界から(勝手に)召喚した巨大ロボ『ヴェルガリオン』のコックピットに召喚されて、そのまま戦わされたもんな。ちくしょう。


「ていうか、いきなりどうしたんだよ、姉貴」


と、言ったものの、実は大体予想はついていたりする。
一、なにかの雑誌で見た――――


「実はこの雑誌の占いで、隣人に贈り物をすると運勢アップって書いてあったんだよねー! あ、勿論アンタのことね」


ビンゴ。商品はないけどな。


「そんなことだろうと思ったよ……。だったら、尚更ヤダ。なんで占いのために、俺が七海にプレゼントをあげないといけないんだよ」


「でも、太陽。そうしないとアンタ、死んじゃうかもしれないよ?」


死ぬ。
その単語に一瞬ドキリと来たが、よくよく考えたら姉貴が持ってる雑誌はただのレディースファッション雑誌。姉貴でもそういうの読むんだなとか、ファッション雑誌になんで占いが載ってるんだよというツッコミは置いといて、どこにでも売っているような雑誌に『今日あなたは死にますよ』なんて書いてあるワケがない。どうせ姉貴の脅し文句だ。


「わーたいへんだなー」


これが俺に出来る姉貴への唯一の反撃。情けないとか言わないで。


「アンタ、信じてないね?」


「姉貴が持ってるのって、普通の雑誌だろ? そんなのに『あなたは死にますよ』なんて書いてあるワケないじゃん。本当のところ、なんて書いてあるんだよ?」


「突然、空からダルマが降ってくるでしょう」


瞬間、何故か頭上に魔法陣。そこから落ちてくるのは無数のダルマ。


「貴方は古代有翼人に連れさらわれるでしょう」


羽根を生やした男が甲高い音ともにガラス戸を破り俺に関節技。なすすべもなく崩れ落ちた俺を抱きかかえ、ソイツは大空高く舞い上がった。


ソイツの飛行速度は並大抵のモノじゃなく、その風圧にはとてもじゃないけど耐えきれない。顔が変形しそう。目を開けたら目玉が潰れそう。…もう、イヤだ……。


そんなあまりの風圧で涙すら流せない俺(と羽根野郎)の横には、恐らく当然のように同じスピードで飛びながら、あの雑誌を音読している姉貴がいるだろう。


「雷が降り注ぐでしょう」


目を閉じていたにも拘わらず、視界が白で塗りつぶされる。
そして、全身を走る衝撃。焦げた臭いがする。手足が痺れる。なんか落下してるような気がする。…え? 落ちて…る……?


「だわぁぁぁあああああああ! おぉぉちぃぃるぅぅぅうううううううううう!!」


―――大体、なんで普通の雑誌に、「空からダルマ」やら「拉致」なんていう言葉があるんだよ。
叫び、落下しながら、俺はそんなことを考えていた――――。