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【隣は魔法使いさん家SS】
俺と七海とプレゼント
ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張る。
どっかの某光の巨人に出て来そうなフレーズだけど、これは立派な俺のポリシー。
例え俺がいてもいなくても同じでも、なにもやらなくても物事が解決するとしても、自分が出来ることは全部やる。俺だって男の子だ。これくらいの意地を張ってみたい。
俺は今、ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張っていた。
「う――――ん……高い」
俺の目の前にあるのは、「建築勇者ダイクウガーVS勇者聖凰ブレイガード」(以下ダイVSブレ)という、二つのアニメの主人公が強敵に立ち向かうため力を合わせるという王道物語……なんだけど、CMを見る限りじゃ、何故か対戦方法が卓球だったり、ピンポン玉で人が死んだりと、なんていうか言葉に出来ないカオス作品だった……。ていうか、ダイクウガーって健助さんのとこのだよなぁ。いつの間にこんなモノに出演したんだ? それにこのブレイガードってロボもどっかで見たことあるような……。
閑話休題。
とにかく、それが今俺の目の前にあるヤツであり、七海へのプレゼントと考えているわけだけど……
「た、高すぎる……。七海のヤツ、こんな高いモノが欲しいのかよ……」
その額一二〇〇〇円。何故、俺が七海のプレゼントのためにこんなに苦しんでいるかは、推して知るべし、だ。
「む? キミは、太陽くんじゃないか」
と、俺に声をかけてきたのは何とも意外な人物だった。
「キミがここに来るだなんて珍しいな。一体、どうしたのだ?」
赤木星也。一〇年前、姉貴にすら止められなかった《絶対世界》という現象をたった三人で阻止した、伝説の戦隊『三頂戦隊リンカイジャー』のレッド、つまりリーダーだ。少し前に恋愛関係で色々いざこざがあったけど、今じゃすっかり落ち着いたのかもしくは火が付いたのか、かつての想い人のことを諦め、新しい恋を求め日々戦っている……らしい。
「いや、ちょっとDVDを買いに……。そういう赤木さんこそ、こんなとこで何してるんですか?」
「私は今、ここでアルバイトをしているのだ。一応、キチンとした仕事もあるのだが、自業自得とはいえ、この間の結婚式で祝いモノや謝礼でかなりの額が飛んでしまったからな。それを取り戻すために、こうして働いているというワケだ」
(伝説の戦隊のリーダーがビデオ屋でアルバイト……)
そのギャップに一瞬、哀愁を覚えながらもなんとか平静を保つ俺。平常心、平常心。
「それで太陽くん。なにを探しているのだ? アルバイトとはいえ、私もここの店員だからな。ここに置いてある商品の位置は全て把握したから、なんでも聞いてくれ」
サラリと凄いことを言う赤木さん。こういう気取らない―というより、それを当り前と感じている―ところは、かつての凄さを感じさせるよなぁ。
「あー……いや、実は俺が欲しいモノは既に見つけた……っていうか、コレなんですけど、ちょっと値段が高くて……」
「ああ、それか。…ふむ、そうだな。キミには散々迷惑をかけたのだし、ここは私がお金を貸そう」
「え、ホントですか!?」
「勿論だ」
流石リンカイレッド! 伝説の男は羽振りも良いんだなぁ。
「ただし、今月末までには返してくれよ」
……伝説の男も、お金にはシビアだった。
*
赤木さんにお金を借りることで、なんとか『ダイVSブレ』を買うことが出来た俺は、早速七海ん家に向かっていた。
「おーい、七海ー! 遊びに来たぞー!」
「はーい!」と二階にある七海の部屋から返事が聞こえたのと同時に、俺の足元に浮かび上がる魔法陣。その魔法陣が俺を包みこんだと思った次の瞬間、俺は七海の部屋にいた。
そう、七海は玄関まで降りるのが面倒だからと、俺を直接自分の部屋に召喚したのだ。
「太陽くん! おっはー!」
「おう、おはようさん。もう昼だけどな」
七海の部屋にある時計を見て、ため息交じりに返事をする。
七海の部屋は意外にも普通の部屋で、ところどころロボット物のDVDが散らばっている以外は、至って普通の『女の子の部屋』なんだ。いや、想像できないと思うだろうけど、本当にそうなんだよ。ちなみに、俺が知ってる中で一番『女の子っぽい部屋』は、姉貴の部屋。姉貴の部屋は、ふかふかの絨毯に童話のお姫さまが使うようなベッド、シルクのカーテンに、部屋の半分以上に我がもの顔で居座る大量のぬいぐるみたち。姉貴って、実は滅茶苦茶『少女趣味』なんだよな。パジャマも未だキャラクター物だし。
二度目の閑話休題。
「実はさ、今日はお前にプレゼントがあるんだよ」
「え! なになにー!」
俺の発言に急にそわそわし始める七海。こういうところは可愛いんだけどなぁ。
「じゃじゃーん! お前が欲しがってた『ダイVSブレ』のDVDだぁぁ!!」
「おおおお――――!!」
ゴクリと、唾を飲み込む七海。
「太陽くん、ありがとー! コレ、ずっと欲しかったんだー!」
「だから買って来たんだよ。ほら、一緒に見ようぜ」
「うん!」
普段の三倍はあるんじゃないかっていうスピードでDVDの準備を始める七海。こういう姿を見てると、本当に買ってやって良かったなって思うよ。うんうん。
「できたー! それじゃあ、早速……スイッチ・オーン!」
*
「…………………………」
見て後悔した。それが俺の素直な感想だった。
…なんていうか、CM以上に凄い出来で、あまりにカオスでなんて言ったらいいのか分からないけど、敢えて言うなら、スタッフの理性が微塵も感じられない、そんな作品だった。多分、コレに出演した本人たちも俺と同じ気持ちだろう。手ブレやスタッフの声らしき物も入ってたしさ。
コレを俺よりずっと楽しみにしていた七海はどんな反応をしてるだろう、と七海の方を見てみると……。
「すっごい、面白かったね!!」
異様に目が輝いていた。
「ラストとか、わたしハラハラドキドキしなが見ちゃった!」
ここまで喜んでくれるヤツがいるのなら、スタッフも本望だろうな。それくらい七海は興奮していた。スゲェよお前……。
「それでね、このDVD見て一つ気が付いたことがあるんだー♪」
「気が付いた事こと?」
「正しくは予想なんだけど……多分、このDVDは平行世界から流れてきたモノだろ思うんだー」
コイツもサラリと凄いことを言ってきた。
「へ、平行世界から流れてきた?」
「うん。ほら、途中何回も手ブレや誰かの声が入ってたでしょ? あれって、プロじゃない、普通の人が……多分、ビデオに映ってる人たちの家族が撮った、ホームビデオみたいなものだと思うんだ。他にも色々と不自然なところがあったしね」
「つまり、なんらかの原因でこの世界に流れてきたDVDを偶然拾った監督が無断で複製、販売したと……」
「うん」
なるほどな。それなら、健助さんたちがDVDに出演してるのも納得できる。俺には良く分からないけど、多分七海の説が正しいんだろうな。
「って、それじゃあ、この監督バリバリの犯罪者じゃねぇか!」
途端、このDVDの出演者たち―七海の話では平行世界にいる本人たち―に情が、これを販売した監督には怒りが湧いてきた。
「ち、ちくしょー! 拾いモノを複製し、それの製作者を名乗った挙句、滅茶苦茶な値段で売りやがってー!! 七海ぃ! 今からその監督ん家言って抗議してくるぞ! ついでに姉貴も呼んじまえ!」
「アイアイサー!」
その後、その監督は捕まり、俺が支払ったお金も戻ってきたのは言うまでもない。
…けど、平行世界、ねぇ。
もしも、もしも、あの世界に『俺』がいたとしたら、一体どんな目に遭ってるんだろうな……。願わくは、あっちの世界での『俺』は俺より格好良い人間であらんことを。